大江山花伝:平みちさんと大空祐飛さんの茨木童子と”人でなし”。

1986年に宝塚の雪組(+1988年の地方公演※現全国ツアー)、2009年に同じく宙組で、それぞれ上演された「大江山花伝」。
私にとって、とても懐かしく大好きな作品です。

原作は木原敏江さんのコミック。私は残念ながら未読ですが、舞台では、大江山に住む鬼・酒呑童子と人間の母との間に生まれた茨木童子の苦悩を軸に、幼い頃に将来を誓い合った藤子、鬼退治を命じられながらも、徐々に茨木に親しみを覚えだす渡辺綱などとの人間模様が描かれています。

雪組版の茨木童子役は、平みちさん。
ライトブラウンのロング鬘がとにかくお似合いで、はっとする程の美しさと独特のオーラがありました。鬼の頭である酒呑童子の息子たる華やかさ、不器用さの中に垣間見える孤独を、その存在感で表現し、観る者を魅了するような茨木であったように思います。

実は私、雪組版でこの作品と出会ったので、「茨木といえば平さん」というイメージだったのですが、先日、スカイステージで宙組版を観て、全く個性の異なる大空祐飛(現ゆうひ)さんの茨木童子にも非常に納得させられました。大空さんの茨木は、より人間らしい印象。彼が背負う影や、苦しみが演技や表情に色濃く表れていて、感情の機微が伝わってくる茨木だと感じました。

そして、私がこの作品の中で一番好きな曲は、“人でなし”。ある意味、究極なタイトル!
己に宿った「鬼」の一面に苦しみ、苦悩を抱く前の「昔」を追憶し続ける茨木の心象風景を歌った曲です。「人でなしの明け暮れに」という救いのない歌いだしと、締めの「飽きもせず見つめる ひとときのまどろみのために」という歌詞に漂う諦めが、作曲家の寺田瀧雄さんの透明感のある旋律に乗せて歌われると、たまらない気持ちになります。短い曲の中に、彼にとっての「夢の昔」の繊細な輝きと、二度と戻れない過去を見つめ続けるしかないもの悲しさが感じられるんですよね。

しかし、「鬼」は人間の中にこそ宿るものである。そんな我々人間に対する問いかけが含まれているところに、この作品のテーマの深さを感じます。