宝塚の男役さんと髭(作品):月城かなとさん、永久輝せあさん

宝塚の男役さんといえば、ヴィジュアル面でも様々な工夫をされることで、理想の男性像を体現されていますが、今日はその中でも最近気になっている、付け髭の役(と作品)について少しだけ書きたいと思います。

以前は、何故だか男役さんの付け髭はあまりかっこよく見えないと勝手に思い込んでいた節があったのですが、最近、似合う方は、むしろさらに素敵になるということに気づいてしまいました。

一番最近で思い浮かぶのは『ピガール狂騒曲』の月城かなとさん。ベースはダンディーでありながらも、ニヒルになりすぎず、コミカルさや、ステージエンタメにロマンを抱き続けるピュアさも感じさせるようなどこか愛嬌のあるお髭姿がチャーミングで印象的でした。

ちなみに今回は、月城さん、珠城りょうさんの役の関係性がとても新鮮で、配信でしか拝見できていないのですが、画面越しにお二人の演技力に引き込まれ、珠城さん扮するジャンヌ(ジャック)がシャルルに恋心を抱く気持ちに「ジャンヌはこのシチュエーションでこういう男性に惹かれていくのね。何だかわかるなあ」と自然に共感し、気付けば2人が結ばれることを祈っておりました。

ところで、月城さんといえば、シャルルとは全く異なる役ですが、『エリザベート』のルキーニのお髭も色気があってとてもお似合いでしたよね。実は付け髭は、お顔立ちが整った男役さんのヴィジュアルのクオリティを強調する効果があるのかも?!と、また今更ながら気づいてしまいました。

それから、お髭といえば、個人的に忘れられないのが『義経妖狐夢幻桜』での永久輝せあさんのヨリトモです。

口の上下にお髭を蓄えたヴィジュアルは、それまでの永久輝さんが演じられることが多かった若々しい青年のイメージとは全く異なり、インパクト大。しかも、想像以上にお似合いで、猛々しさだけが前面に出ているかと思いきや、あの勇ましいお髭に、永久輝さんのどこか憂いのある目元が映えること!男らしさの中に見え隠れする甘さが武将の色気を感じさせ、登場される度に目を奪われておりました。(やはり映像鑑賞ではありますが。) 

勿論、ヴィジュアルだけでなく、ヨシツネ、家来、妻など、接する相手によって見せる顔が異なる永久輝さんの演技もまた魅力に溢れていて、印象に残っています。

また、この作品では、主演の朝美絢さん扮するヨシツネ(弟)と、ヨリトモ(兄)の対比も見所の1つで、性格も辿る道も異なる2人の間にいつしか共通項が見えてくる辺りも興味深いものがありました。

そして、摩訶不思議な世界に迷いこみ、戸惑い、時に立ち止まりながらも、安易な思想に逃げることなく、己の進むべき道と誠実に向き合っていくヨシツネもまた、朝美さんにしか出せない説得力があり、素晴らしかったです。

お髭から話は逸れてしまいましたが、谷貴矢さんの作品は既に独自の世界観を確立されている印象があるだけに、今後のご活躍がとても楽しみな脚本演出家さんのお一人です。

実は他にもお髭が似合う男役さんは何人か思い浮かぶのですが、語りだすと切りがないので(笑)、マニアックな役どころまでは踏み込めませんでしたが、今回はこの辺で。またいつか小出しで語るかもしれません(笑)。

春の雪(宝塚月組):若さゆえ?!

スカイステージの予告で、明日海りおさんと咲妃みゆさんの姿の大正ロマン的な雰囲気に惹かれ、録画した「春の雪」(2012年宝塚月組公演)、ようやく観ることができました。
(※ネタバレ含みます。)

原作は、あの三島由紀夫。
宝塚版は、流れのままいけば順風満帆に進んだはずの青く初々しい恋愛が、若さゆえのボタンのかけ違いから、悲劇に転じていく様を描いた作品だと感じました。
結ばれるお膳立ては整っていたはずの松枝清顕と綾倉聡子の関係が、清顕のいらぬ見栄や勘繰りをきっかけに拗れ、ようやく二人の思いが燃え上がった時期と前後して、聡子は宮家の男性と婚約し、事態は破滅へと繋がっていく。

それだけに、「何故そうなる!?」と突っ込みたい瞬間も多いのですが、その愚かさこそが人間らしさであり、若さかもしれないなと。さらに言えば、この作品は、未熟さ、愚直なまでの純粋さ、底知れぬエネルギーを抱える若者という生き物を、ある意味、究極の形で描いているのかもしれません。機会があれば、原作も読んでみようかな。

そんな中、最終的には心身を病み、命を落とす清顕も哀れですが、彼との間に身ごもった子供を産むことも許されず、出家の道を選ぶ聡子はさらに救いがないように感じられて。勿論、婚約者がありながら、ほかの男性と関係をもつなど言語道断ではありますが(家柄や時代性を考えれば尚のこと)、彼女がまだうら若いことを考えると、自業自得とは思いつつ、同情心が湧いてしまいました。

そして、自ら結婚のチャンスを逃しながらも、最期まで彼女を求め続けるというある意味身勝手な人物像に、「若さゆえ」という部分を見出せたのは、配役の妙といえるのかもしれません。明日海りおさんの清顕は、気品と精悍さ、清潔感に溢れていて、青いからこそ魅力的な青年像を見事に表現しきっていると思いました。

また、咲妃みゆさんの聡子は、可愛さを前面に出した伯爵令嬢のステレオタイプの役作りではなく、地に足のついた凛とした佇まいと落ち着きがあり、研2とは思えない風格を感じました。

以上、大正ロマンの世界を久々に堪能させていただきました。